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連続官能小説『三日月の夜、星になりたい』第5話~キスで開かれる性の城~

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2018.11.15

夜景をバックに車内でキスする美知留と凪

凪とは時折LINEを交換しながらお互いの自己紹介をした。これまでの恥ずかしがって控えめにしていた自分に鞭打ち、発言したり、自ら挨拶したりした結果、アイドル顔の凪と出会えた。美佳子のアドバイスは的を得ていた。

下北沢の小さな劇場で観た凪は、コミュニケーションセミナーで短い会話をした凪とは別人だ。

コウモリ男の役。顔を青白く塗り、漆黒のマントに身を包み、低い声を絞り出すように台詞を言う。美知留の席は前方だったので凪の顔もよく見えた。

凪がステージで左に歩けば美知留の目も凪を追う。客席に近づけばその鼓動が聞こえてくるほどの迫力。一瞬、ステージ上の凪と視線が合いゾクリとする。怖いメイクをしているのにそのやさしげな眼差しは、美知留のみぞおちあたりを射抜いた。

美知留の下半身がカッと熱くなる。凪の手のひらを腿の内側に押しつけられたかのごとく。心臓がトクンと動く。奥のほうがジリっと焼き付く。

「…やだ。私…どうしたんだろう」

舞台が終わる。前日LINEで言われたとおり、劇場の裏手にある駐車場で凪を待っていた。劇場の通用門には各俳優の追っかけが数名立っている。きっと凪のファンもいるにちがいない。でも凪は美知留と約束していた。“終わったら一緒にメシ行こう”と。

「これって…私だけ特別待遇ってこと?凪くんって年下だけど、気にすることないのかな…」

少しだけ期待した。40分待っても凪は現れない。LINEもない。セミナーで同席したくらいで特別待遇になるわけないといういつもの否定感が湧き起こる。また十分経過。茜じゃないけれど「どうせ私なんか」という言葉が浮かぶ。ふてくされはじめる。

すると、凪が遠くからあやまりながら駆けつけてきた。

「悪い悪い、急に監督に呼ばれてさ、演技指導されちゃって。まじごめん。メシごちそうするよ」

頭上の澱んだ空気が一気に散る。ホッとした。一時間も人を待った経験などない。安堵感とともに涙があふれる。泣くことないじゃない、と美知留は自分を叱った。一度涙腺が開くと涙は最後の一滴まで出てしまうものなのか。凪が困った顔をしてタオルを差し出す。

「ごめん。待たされたぐらいで泣くことないのに、私、おかしいよね。お芝居、感激して涙腺がゆるんだみたいで」

凪は停めてあった軽の白いワゴンに美知留を乗せ、湾岸に向かって走り出した。車の中で美知留は芝居の各シーンについての感想を言葉を選んで話した。凪の登場シーンは特によく覚えている。凪の目の動きがすごく神秘的で良かったと興奮しながら告げた。次の舞台も必ず観ると宣言する。

今までの恥ずかしがり屋の美知留は封印した。凪が車を路肩に停めて美知留を見る。

「美知留さん、初めてだな。君みたいにちゃんと劇を観てくれたひと。付き合いで来てくれる友達は多いけど、みんな1回っきり。うれしいよ」

都会の夜は無数のライトに照らされて明るい。車の窓から見える海にかかる長いブリッジ。ブリッジ自体がキラキラ光り、この下に海があると示してくれている。

1度しか会ったことない男とキスするのはどう?冒険しない?」

凪の額にかかる斜めに切られた前髪がふわっと揺れる。美知留の気持ちもふわっと浮く。

「セミナーのとき、かわいいなって思ったんだ。ゴクゴクってジュース飲んだとき、君の唇…。キスしたくなるほど、印象的だった

凪が美知留の頬を両手で包み、ひとさし指で上唇にちょこんと触れる。唇をゆっくり重ねた。

夜景をバックに車内でキスする男女

凪の手のひらは頬にある。男の熱量が頬をあたためる。なのになぜか美知留は太ももの間がぼんやりあたたかくなり、キュイっとうずく。美佳子の腰を浮かす姿、月明かりに浮かぶいやらしい影を思い起こす。

”キスとセックスはワンセット”。美佳子の分析が頭に浮かぶ。唇を好きな男にふさがれると、連動して子宮という部屋が受け入れ体制を作る。部屋につながる廊下も波打つ。道が広がる。キスは女の性の城を開くマスターキー。美佳子の言うことは間違いではない。凪を舞台で観ているときからずっと、美知留の城は門戸を開けようとしていたに違いない。

その夜はブリッジが見える肉バルで赤いワインを飲む。二人は肩を寄せて恋人気分。凪のラジオCMが噂になり、山梨のテレビ局で短いコーナーのレギュラーが決まったことを聞く。彼女がいないことも確認した。

「今はまだしょぼい無名俳優だけど、売れてきたら車ももっといいやつ買うからドライブしよう」

凪が完璧なアイドル顔で誘う。きれいな顔だ。きっと身体も王子様にちがいない。

「売れてから会うなんて待てない。またすぐ車に乗せて欲しいな。ちょっと年上だけど…いいかな」

美知留は自分の気持ちをはっきり口に出した。こんなこと今まで恥ずかしくて言えなかったのに。黒歴史を吹っ切るのだ。凪の彼女になるために。凪に抱かれるために。お城の門はマスターキーで開かれた。凪は舞台で見せたキリッとした顔つきでこたえる。

「年とか関係ないよ。美知留さんが熱心に観てくれてるって感じて、まじ嬉しかったし。駐車場で見た涙にも…グッときた」

二人はなんとなく付き合うようになった。

(つづく)

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●イラスト:フジワラアイ

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ムーンライトノベルズ小説コンテスト

▼ライター:三松真由美さんプロフィール

三松真由美さん

恋人・夫婦仲相談所所長、通称すずね所長・コラムニスト

元主婦マーケティングの会社経営。
夫婦仲に悩む女性会員1万2千名を集め「ニッポンの結婚・夫婦仲」を真剣に考えるコミュニティを展開中。「ED」「セックスレス」「アンチエイジング」「再婚」「若い世代のエッチ」などのテーマを幅広く考察。

マスコミ取材も多く、恋愛・夫婦仲コメンテーターとして着実に歩んでいる。日本性科学会会員。ED診療ガイドライン制作委員。著書「新・抱かない男の見分け方」(スターツ出版)他多数。

▼三松真由美さんのサイトはこちら

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